ついに「ヤツ」と対峙したのです。
伊勢湾岸道の「湾岸長島」出口付近、
高速沿いにぬーっと立っている憎いヤツ。
それが、東京~兵庫県を車で往復するたびに、
必ず僕を威圧するのです。
「お前はビビリやから、俺には勝たれへんやろ」
まあ、三重県なので、
「お前は臆病なもんで、ワシには勝てんわさ」
みたいな、挑発的なその姿。
そうです。僕はビビリです。
おまけに高所恐怖症です。
ふちのない、せり上がったステージで踊ったり、
高所の空中をワイヤーで吊られながら歌う「嵐」を見て、
今後何があってもうっかり「嵐」に入らないようにしよう、と決意したくらい、
高いところが嫌いです。
だのに、なぜ。
人生待ったなしの僕に、もう怖いものなんかないわ!という
やけっぱちな気持ちがそうさせたのでしょうか?
先日、ふと巡ってきた家族サービスのチャンス。
ふと気がついたら僕は、友人家族と一緒に、
ナガシマスパーランドに来ていたのでした。
日本全国のジェットコースターマニアの皆様なら当然ご存知の、
スリル満点ライドで有名な、ナガシマスパーランドです。
まずは、世界最大級の木製コースター「ホワイトサイクロン」。
許してくださいと言いたくなる強烈な横Gに耐えるのも、
手術前だったら、きっと難しかったことでしょう。
そして、日本一の高さ(97メートル)と最大落差(93、5メートル)、
世界一の全長2479メートルという距離を誇る、「スチールドラゴン」。
最高時速153キロの世界で、3分半ほど叫びっ放しというシロモノです。
「ホワイトサイクロン」が、コースター好きを満足させる、
質量ともに完成されたフルコースだとしたら、
「スチールドラゴン」は獰猛な脅威。
食事で言ったら野生の骨付き肉の塊のまるかじりです。
僕は生まれて初めて、遊んでいる時に命の危険を感じました。
スチールドラゴンの上昇中に、地上に向かって手を振る。 恐れるものなど何ひとつない、最後の幸せなひととき。 |
スパーランドの安全点検は親切丁寧で、とてもありがたいのです。
だから、乗り物は安全なのです。
安全なはずです。
安全に違いありません。
しかし、本能は叫びます。アカン、これはアカン、と。
おかげで家族サービスのはずの行楽は、
僕の精神修行の場となってしまいました。
さて、気を失いそうなほどの眠さに耐える帰り道。
運転手の命綱は、時々口に放り込むミントの粒だけです。
ヨメがそれをパッケージごとシートの隙間に落としてしまい、
しかも「隙間に手が入らなくて取れない」と言われた瞬間の
やるせなさ、切なさ、怒り。
感情を爆発させることなく「しゃあないよ」と言えた僕は、大人でした。
精神修行の効果が出ていました。
心の開幕準備、OKです。