和やかなムードあふれる、移動中のバス。
T(岡田選手)の「くしゃ顔ブイ!」も、キンコ(金子投手)のキラースマイルも、
試合のない練習日ならではのリラックスモードです。
僕の隣では、ビッキー(大引選手)がアイパッドで、「ワンピース」に夢中です。
もはや「おたく」領域に棲む彼は、
「絶対はまりますから読んでください!」と布教に必死。
我が家では、ヨメと寛がワンピース・ファンですが、
僕はあまりの登場人物の多さに、どうやってもついていけません。
もともと、「何かにハマる」ということのない性格なだけに、
ワンピース・ブームも、どこか他人事です。
一方で、「ハマる」ビッキーは、何度も何度も、同じところを
読んでは感動しています。まるで教科書を読むように、
大変几帳面にワンピースを堪能しています。
アイパッドじゃなくて紙の本やったら、食ってまいそうやなあ。
「この台詞が」「このキャラクターが」と丁寧に説明してくれるその姿は、
小学校の頃、クラスに一人や二人はいた、鉄道や虫の博士と何ら変わりません。
何ごとにも、とにかくマジメすぎて、自分を苦しめてしまいがちなビッキー。
チャンスで打てなかった試合後は、茫然自失として、
呼びかけても反応すらなくどよーんとしています。
それを見ていると僕は、かつての自分を思い出すのです。
ただ必死で、もがくように野球をやっていた自分。
融通がきかなくて、頑固だった自分。
切り替えの下手だった自分。
己を押さえつけるがあまり、はじけることのできなかった自分。
そこから開放された時、僕の気持ちはどれだけ軽くなったことでしょう。
ビッキーも、こっちの世界に引っ張り込んで、
あれこれ背負っている肩の荷をおろしてやりたい。
マジメじゃない、イコール、不真面目、ではありません。
不真面目に野球をやっている選手なんて、一人もいないのです。
ただ、長丁場の戦いの中では、切り替え上手にならなければいけないし、
ちょっといいかげんなくらいでないと、
乗り越えていけないものがたくさんあるのです。
守備うまい。センスいい。チャンスに強い。
あとは、はじけるだけやぞ、ビッキー。
じじいの遺言、しっかり聞いたってくれ。