ご無沙汰しております。
2月が始まり、リハビリも順調な田口です。
肩の状態は、もう、明日にでも投げ始められそうなほどで、
その「うずうず」と戦うのが、このところの日課です。
ところで、僕は兵庫県にある六甲山脈の麓に住んでいます。
麓、いえ、もしかしたら中腹。このあたりは坂だらけで、
トレーニング場所には事欠きません。
どれくらい山なのかというと、住宅街なのに、ゲートルを巻いて
リュックを背負った登山客が、週末ともなると近所を普通に歩いているくらいです。
高校時代はプロを夢見てこの景色の中を毎日走っていました。
そして今は、復活を信じて走っています。
そんなランニングに携帯電話は必需品。なぜなら山道に分け入ると、
冗談抜きで遭難しかけることがあるので、ヨメにSOSをするためです。
って、もしかしたら電波が通じへんかもということに、今気づいた。
ともあれ、このランニングに仲間が加わりました。
田口寛(かん)、8歳。小学2年生です。
ある日、小僧が言いました。
「パパー、一緒に走りに行ってもいい?」
正直、邪魔されたくないのです。ペースも違うでしょう。途中で「疲れた」とか
「休みたい」とか言うでしょう。車に轢かれそうになるでしょう。
崖から跳ぶでしょう。そういう面倒くさい人とご一緒したくありません。
「アカンアカン。パパ、仕事やねんで。だいたい1時間ずっと山道走られへんやろ?」
「たぶんできる」
「無理やろ。パパでも帰ってきたらヘロヘロやのに」
しかし、どうしてもついてくる、と言い張る息子を見て、父は思いました。
(やっぱりパパってすごいなあ)と言わせるチャンスやと。
そして1時間後。
「ただいまあっ!」さわやかに玄関に走り込んだのは寛で、
「・・・た・・・ただいま・・・」とふらふらしていたのは、僕でした。
「パパ、大丈夫?」
「パパ、大丈夫?」
そんなこと言わしたかったんちゃうわい!
寛は1時間、普通に走り続けました。
とっとことっとこ、しゃべりっぱなしで、息も乱さず平然と。
2年前は、僕のペースについてこられなかったのに。
いつの間にやら、しっかり走れるようになっていて、
しかも、僕より余裕があるなんて。
| 普通に走る前に、登るという戦いがある |
| 自然の中だと、サル度がアップする寛 |
数ヶ月前、寛とヨメが遠投勝負をしたことがありました。
投てき競技出身で、キャッチボールも普通にこなすヨメは、
(たかが2年生)と思っていたようです。しかし結果は寛の圧勝。
赤ちゃんだった彼は、いつの間にか野球少年になっていました。
そう遠くないうちに、身長も抜かされるんでしょう。
力も、強くなるんでしょう。
ひょいっと抱き上げてしまえた身体に、おんぶしてもらう日が来るかもしれません。
親はいつでも、子供より強く、優位に立っているものだと思っていましたが、
それは、単なる親の見栄と願望でしかないのでしょうか?
息子の成長を喜ばないはずもなく、けれど心のどこかで、
寂しい気持ちがちらちらあるのも本音です。
置いて行かれるような寂しさなのか。単なる闘争本能か。
強力なライバルを得た僕は、打倒・田口寛を目標に
今日も走るのです。
トレーニングの目的が、またあらたにひとつ加わりました。